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日本の製造業が再び世界で輝くために、今、なすべきこととは(後編)

イノベーション, テクノロジー
2019年10月30日

なかなか進まないDX(デジタルトランスフォーメーション)。DXへの取り組みを上手く進めているのはどのような企業なのか。またDXを加速するためのポイントなどについて、アイティメディア株式会社 MONOist編集長 三島一孝氏に本ウェブメディア「DiGiTAL CONVENTiON」編集長 福本勲が話を聞いた。

アイティメディア株式会社 MONOist編集長 三島一孝氏(動画:43秒)

フィジカルに強みを持つ企業こそデジタルに取り組むべき

福本:DXをうまく進めている企業があれば、ぜひ、教えてください。

三島:まず、前提として、DXで進んでいる企業といっても現状で実現できていることは描かれている理想的な姿の最初の半歩か一歩です。DXで本当の意味で成功している企業は、グローバルでもほぼ存在していないとみています。現在の「進んでいる、遅れている」がほんの小さな差だという前提に立ったうえであえていえば、建設機械メーカーや工作機械メーカーなど、BtoBの大型機械メーカーでは積極的な企業が多く、うまく取り組めているように思います。
その理由としてBtoBの大型機械ではDXによって収益が得られる成功モデルが既に見えているということが挙げられます。その1つが予兆保全など保全・メンテナンス領域です。この領域では、保守部品やメンテナンスのコストを低減できる他、保守パーツの販売をサードパーティに取られずに自社で行うことができるなどIoTによる価値が立証できつつあります。利益が計算できるから、ビジネス的にも意味があるということで取り組みやすいと思います。そのためのデジタルデータ基盤をつくることができれば、集めたデータを生かして次の価値を生み出しやすくなります。
多くの企業にとっては、DXを進めるという以前にデジタイゼーション(データ化)が非常に難しいと感じています。また、そこに投資を促すためには回収までのサイクルやモデルが必要になります。それが見えている業界は踏み出しやすいといえます。しかし、見えてないところは、失敗を何度も繰り返す前に、小さなトライを重ね、「成功の形」をまず作ることが大事だと思います。
ポイントは、IoTも同じですが「目的」をどう置くのか、ビジネス価値をどう生むのかが最も大事なことです。データが価値の源泉だといっても、ただデータをやみくもに取ってビジネスに使えないのであれば、無駄になるだけですよね。また「DXの成功の形はこうだ」といわれているものでも、自社のビジネスに当てはまらなければその成功モデルを生かすことはできません。企業価値や社会価値を実現するためにデジタル技術を使って何ができるか、この問題が解決できるのではないか、という目的を中心としたアプローチが何よりも重要ではないかなと思います。

福本:DXの推進には、自社のビジネスを利する形でアーキテクチャーやシステムを設計しエコシステムをつくることができる企業が有利だと思いますが、どのようにお考えですか。また、そのようなポジションにない企業には、どのような可能性があるでしょうか。

三島:先ほども少し触れましたが、デジタル化で先行し幅広く展開する企業が必ずしも成功しているわけではないということがあります。デジタル化やDXもビジネス価値や社会価値を高めるための1つの手段です。そういう意味で、全ての企業が必ずしもプラットフォームやエコシステムの中心を取りにいかなくてもよいと思っています。この領域はプラットフォームにアプリケーションとして参加するけれど、この領域はプラットフォームを自社で作りたい、というような意思を持った選択ができているかどうかの方が大事だと考えています。選択せずに流されているというのが最も悪い状況です。
その中で特にサイバーとフィジカルが融合する世界が広がる中、製造業がモノからコトへと進んでいることを考えた場合、モノでシェアを持っているというのは圧倒的に有利なポイントになると考えます。モノからデータを取るという前提ですが、その市場のデータがどんどん集まってくるので、それを使って自社のモノを進化させたり、新たなビジネスモデルを生み出したりしやすくなります。従来のモノづくりの領域外になるかもしれませんが、幅広くエンドユーザーに価値を届けるというようにマインドセットを変えられれば大きなチャンスをつかめると感じています。
こういう話をするとBtoCの完成品メーカー向けの話だといわれることもあるのですが、BtoBの部品メーカーでも、ビジネスエコシステムの中でどういう位置づけを取るのか、という考え方が非常に大事になると考えます。GEの航空機エンジンのように、サプライヤーであっても、シェアをある程度持っていたり強みのある領域があれば、そのデータを取って活用することで、モノに付加価値をつけたり、従来とは異なる商流で取引ができる可能性もあります。そのように自社の事業の位置づけや価値を再構築することも必要になると思います。

福本:競争力のあるモノを持っていて、そのデータを使ってモノやコトを進化させられるような、フィジカルに強みを持つCPS企業が有利ということですね。さらに、データとデータをつないだり、データを扱ったりするプラットフォームを中心としたエコシステムにいろいろなプレイヤーを集められることもポイントだと思います。

三島:データそのものは、企業にとっては価値ではなく、分析など何らかの形で現実世界にフィードバックすることではじめて価値を生むわけです。それまでは、すべて投資になります。だからこそ、ビジネスをどう変えるのか、企業の社会価値をどの方向に伸ばすのかということから逆算して考えるべきなのです。「流行だから」と流されたり「技術の進歩」ありきで進めると、少し行き詰まっただけですぐ方向転換したくなります。企業としてぶれずに腰を据えてやるこことが重要だと思います。大変ですが成果が出せる道筋を見つけ出せるかどうかで、成否が分かれると思います。

DXを企業の方向性とシンクロさせる

福本:製造業がDXを進めていく上で、注意すべきことやポイントについてどうお考えですか。

三島:まずは、メガトレンドと組み合わせつつ、企業の方向性とシンクロさせること。そして完全に新規のものは、失敗する可能性が高いので、スモールスタートで進めることです。成功の芽が見えればスケーリングし、すぐにビジネスに組み込めるような作り方をすることが重要です。
まだ取り組みを進めていない企業では、企業課題をベースにデジタルがはまりそうな領域を探し、小さくてもよいので成功事例をつくり、CPSサイクルを回すことです。DXは大きな話ですが、どういう価値を作れるのかが認識できなければ進めることはできません。

福本:検討を始めて3年経っても、まだPoCの先に進めない企業もたくさんあります。このようなケースは、ポイントが押さえられていないということなのでしょうか。

三島:先ほど話したように、社会課題や自分たちが進むロードマップが描けていないのだと思います。もしくは、ビジネスに直接関係のない、PoCのためのPoCや、「DXやっています」といいたいだけのDXなどを推進してしまったケースもある気がします。

福本:そもそものデータ化が現実的には大きなハードルになっていることもあると思います。

三島:繰り返しますがデータ取得は投資であって、データそのものだけではリターンは生まれません。だからこそ、小さくてもいいのでリターンが返ってくるところで成功の形を作ることが企業にとっては重要だと考えます。データを取得し、蓄積し、分析して知見を見つけ、価値化して現実にフィードバックするというサイクルを回せるところを見つけるべきなのです。やみくもにデータを集めるのではなく、ビジネス価値が見える領域までのサイクルを作り続け、成功の形が見えればそれをスケーリングする。こうして生まれた複数の成功の形をつないでいくという順番が一番円滑なのではないかと考えています。

福本:バブル崩壊以降、停滞から縮退への歴史を刻んできたと言われてきた日本の製造業が、世界でのポジションを得ていくことはできるのでしょうか。

三島:ものづくり立国といえる国は、世界中を見ても限られています。このモノをベースとしつつサイバーの世界の利点を組み合わせる「日本式のCPS」を作ることができれば、日本企業も勝負できると思います。DXはまだまだはじまったばかりで趨勢はまだ決まっていません。日本企業にもまだ大きなチャンスがあると考えています。

日本企業はブレずに腰を据えた取り組みを

福本:最後に、今後DXに取り組む企業へのアドバイスをお願いします。

三島:世界のあらゆる企業がデジタル化し、デジタルがインフラになった時に、デジタルそのものは差異化の要素になりません。モノ(製品)や人、現場力がデジタルの世界でも強みとなります。特にGAFAのような人経由のデータではなくて、モノ経由のデータを活用する世界では、モノづくりをする国が限られているので、そこにチャンスが生まれます。だから決して遅れているなど、卑下する必要はありません。
今持っているモノが差異を生むとすれば、それがどう社会に役立つのかというビジョンを描いて進んでいきさえすれば良いのです。そうすれば、今持っているモノや人の強さが日本らしさとして発揮され、世界に今までにない価値を提供できるようになると思います。DXは、多くの企業が自らの価値をもう一度見直し、そして「自分たちだったらこれができる」というチャレンジに進むチャンスです。ぜひチャンスをつかんでもらいたいと思いますし、MONOistとしてもそこを応援していきたいと考えています。

福本:日本企業も卑下する必要はなく、自社の強みを生かしてDXに対しても、ブレずに腰を据えた取り組みを進めれば、世界で活躍するチャンスがあるということですね。三島さんにはいつもとは逆の立場でインタビューさせていただき、お互い不慣れな点もあったかと思いますが、いろいろとお話しいただき、また力強いメッセージをいただきありがとうございました。

三島 一孝 氏 写真
三島 一孝 氏

アイティメディア株式会社
プロフェッショナル・メディア事業本部
MONOist 編集長

電機業界紙、IT関連メディアなどを経て2013年にアイティメディア株式会社に入社。
エネルギーメディア「スマートジャパン」の編集長などを経て、2016年10月にモノづくり技術者向けメディア「MONOist」の編集長に就任。
スマートファクトリーやインダストリー4.0をはじめ、製造ITやFA関連の取材・編集活動に従事し、「日本のモノづくり」の振興に向けた情報発信を行っている。

執筆:中村 仁美
撮影:鎌田 健志
  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2019年10月現在のものです。

「DiGiTAL CONVENTiON(デジタル コンベンション)」は、共にデジタル時代に向かっていくためのヒト、モノ、情報、知識が集まる「場」を提供していきます。

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